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 私とテツは久万高原町と松山市との境界線である三坂峠への道を歩いている。次の次の札所、つまり四十六番へ行くには通らなければいけない峠道。今日中に四十四番近くの宿から峠までの約八キロを歩けば、明日は今日歩いた分、バスを使ってもいいのではないのか。
 この方式、実は昨日の宿で教えてもらった。二度手間になるが、余った時間を有効活用するため、明日の予定を楽にするため、遍路道での歩きを貫くためにも私たちは決断した。
 峠道といっても、三坂峠までは舗装された国道を歩く。緩やかな上りで、道そのものは、きつくない。ただ、八キロは、そう簡単に着く距離ではなかった。
 「身体は軽くていいんですけど、三坂峠、まだまだですよ」
 私の渡した遍路地図のコピーを見ながら、テツがぼやく。ちなみに私とテツは一度、宿に戻り、遍路用品の入った頭陀袋と菅笠を置いてきている。なので、テツは白装束に金剛杖というスタイル。
 一方、私は空模様が再び、怪しくなってきたので、白装束、金剛杖に折り畳み傘だけが入ったザックを背負っている。雨合羽を入れなかったのは単に傘のほうが軽いからである。舗装された国道を歩くので、それほど雨に対して重装備も必要ないだろう。
 そして私とテツが白装束を脱がなかったのは、私服で歩くよりも何となく、力が出てくるような感じがしたからである。それに私たちが歩くのは国道とはいえ、遍路道。やっぱり、きちんとした遍路の制服で歩きたい。

 「何で、ここまでして、俺たち、歩くんでしょうね?」とテツが訊ねる。
 「ここが遍路道だから」と私は答える。
 「深いですねえ。なぜ、歩くのか? それは遍路道だから。何か、格言みたいで格好いいですね」
 格好いいだろうか? 単なる馬鹿正直なだけだろう。格好よさなど微塵もない。しかし、この馬鹿正直さはテツはともかく、私の個性の一つである。実人生で役に立っているのか、立っていないのかは別にして、私の人生とともにあったものだ。そう簡単に切り離されるものではない。