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 常福寺を出て、歩き続け、国道192号線沿いにある遍路小屋「しんきん庵・法皇」で今日最後の休憩。そこでは男性のお遍路さんが三人、女性のお遍路さんが一人、休んでいた。四人とも今日、私が予約を取れなかったこの先の佐野の一軒宿に泊まる人たちだった。
 話を聞いてみると、一ヶ月前から予約をした人もいるらしい。二日前に電話した私がどうりで予約が取れないはずである。一軒宿を予約する時は相当早く動かなければいけないようだ。
 今日の行程が残りわずかで、のんびりしている彼らと別れ、私とテツは再び、遍路道に戻る。一軒宿に泊まれない私たちは遍路道から離れたところにある別の宿の人に車で迎えに来てもらうことになっている。
 だらだらとした上りの国道192号線を根気よく上り続け、全長855メートルの境目トンネルで県境を越えた。しかし、そこは香川県ではなく、徳島県。このあたりは愛媛、香川、徳島三県の県境になっていて、遍路道は一度、徳島県を通る。
 トンネルを出たところで、事前の宿との打ち合わせ通り、私は電話をかけた。それから私とテツはその電話で指定された待ち合わせ場所に向かう。待ち合わせ場所は佐野の一軒宿の前。同じ宿に泊まる別のお遍路さん二人も近くにいるようなので、合流し、一緒に乗車する手はずである。
 「久しぶりに車に乗れますね」
 テツは嬉しそうだ。遍路道から外れた宿に泊まるのは少し面倒だが、車で送り迎えしてくれるのは助かる。余計な体力を使うことなく、宿まで楽に移動できる。
 
 待ち合わせ場所には見知った二人の顔があった。岡村さんとその甥である増田の二人。岡村さんは愛想よく私たちに声をかけてくるが、増田は相変わらず、会釈をするだけだった。
 少しすると、今夜の宿の車が迎えに来て、私たちはその車に乗り込んだ。そして出発進行。車窓を流れる景色のスピードが速い。やはり、歩きと車では、そのスピードに雲泥の差がある。
 「やっぱり楽ですね。車は」
 「楽すぎて、なんか悪い気がします」
 テツの言葉を受けた岡村さんの言葉に私は頷く。やはり毎日、歩いていると、そのような気分にもなってくる。
 「でも、今日は、この四人で楽しくやりましょう」
 「もう一人、若い女性が来るようです。少し遅れているようですが」
 運転手のおじさんが口をはさむ。若い女性?
 「真夏ちゃんかな?」と岡村さんが推定する。
 「そうですよ。きっと真夏ちゃんだ」
 テツが嬉しそうに断定する。何となく、岡村さんとテツの波長が合っているのは気のせいだろうか。
 「今日は楽しくなりそうですね」
 楽しくなりますよ、とテツが岡村さんに自信たっぷりに返す。本当にテツは楽しそうである。近くの宿は予約できなかったが、これはこれで良かったのかもしれない。